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第7回ゲスト:帝京平成大学 教授・富田隆 先生、岩手医科大学 助教・松尾泰佑 先生

連載 クローズアップ・在宅医療・介護⑦

ゲスト:帝京平成大学 教授・富田隆 先生、岩手医科大学 助教・松尾泰佑 先生

どのように薬を飲んでもらうか?――研究者の挑戦

現場と研究のコネクトが新たな医療の可能性に

今回、小原道子さん(岐阜薬科大学特任教授、日本ヘルスケア協会理事)との対談連載に、帝京平成大学教授・富田隆先生と岩手医科大学助教・松尾泰佑先生をお招きした。両先生は、「とろみ調整食品の使用が医薬品にどのような影響をもたらすか」「吸湿性のある医薬品をどのように保管すべきか」など、医薬品に関わる、特に在宅医療の現場で有用な事柄をテーマとして日々研究に注力する。薬を飲んだその先を見据えた研究および成果は、患者のQOLを高めることに直結するため、薬剤師はぜひ知っておくべきだろう。本稿では、両先生の研究に向かう姿勢とともに直近の研究でどのような成果が出たかにフォーカスした。

(取材・記事=佐藤健太)

 

とろみ調整食品(とろみ剤)の活用は薬剤師の重要な課題

 

小原さん まず富田先生が「とろみ剤の研究」に興味を持たれたきっかけを教えてください。

小原道子さん

富田先生 筑波大学名誉教授、元 筑波大学附属病院薬剤部長の幸田幸直先生(現 つくば国際大学医療保健学部学部長)から「とろみ剤で錠剤を内服した高齢患者の便中に錠剤がそのまま排泄された事例が報告された。これは医療において大きな問題であり、何とかして欲しい」とお話しいただいたのが最初のきっかけでした。

 

小原さん 松尾先生はいかがでしょうか。

 

松尾先生 私は富田先生との出会いがきっかけとなります。以前、富田先生は私と同じ岩手医科大学に所属しており、研究室は違いましたが、富田先生との交流を持つようになり、とろみ剤が医療に貢献できる可能性に興味を持ったことが第一だと思います。

 

小原さん お二人の先生は、「患者さんにより良い医療を提供したい!」という信念で研究に向き合っていると思います。

 

富田先生 嚥下障害患者におけるとろみ剤の活用や吸湿性のある薬剤の保管など、医療上の問題は数多くあります。かつて私は病院薬剤師や精神科病院の薬剤部長として勤務していた経験があるので、これらは薬剤師が解決すべき問題であると認識していました。

しかし、解決するスピードが必ずしも早くなく、誰かが重点的に研究し、そのデータを実臨床にフィードバックしなければ問題の早期解決に至らず、「誰も研究しないのであれば、私がやる!」という使命感で、この道の研究者として歩み始めました。現在も「いつまでもデータが不十分な状況で患者さんに薬を飲ませるわけにはいかない」という問題意識を持ちながら研究を進めています。

 

松尾先生 私は現在、岩手医科大学の薬学部に所属しており、「せっかく薬学部に来たのだから現場に貢献したい」という思いを持っています。私が所属する研究室の教授の佐塚泰之先生は「研究を通じて現場の問題を解決する」という信念を持っておりましたので、佐塚先生との出会いも大きかったと感じています。

富田先生がお話しした通り臨床には多くの問題がありますので、その解決法を客観的なデータを示しながら論文として発表することができれば、現場の薬剤師も使いやすくなると考え、日々研究を続けています。

 

「薬を渡す」で終わってはいけない

 

小原さん 現場に出ると、患者さんは例えば「食後に服用する薬剤がある」と認識していても、体調や気持ちが不安定であればあるほど「この薬は私に合っているのか」「何となく薬を飲みたくない気がする」など、薬に対してネガティブな捉え方をする方も見受けられます。薬は患者さんの症状を改善・緩和していく魔法のようなものですが、現場で仕事に追われてしまいがちな薬剤師は、薬そのものの効果や特性の説明はしますが、服薬時の患者の深層心理というところまで、なかなか発想が届きません。

これまで私は在宅医療に長らく関わってきました。その中で感じたことは、患者さんが生活する環境を知らずに、薬剤師が薬局の窓口で薬を出し、その後は関与しない。そうしたことは非常に無責任だと在宅医療の現場で痛感しました。

ある介護施設でご一緒していた高齢者から「錠剤の薬を飲むときにむせてしまうから粉薬にして欲しい」と話され、医師に相談をして剤型を変更しました。その後、直接的な原因は判りませんでしたが、数日後に発熱があり、誤嚥性肺炎で入院されたケースがありました。

そのときに、「もしかしたら、薬に対する不安や体調の変化をもっと相談したかったかもしれない、と振り返りました。そして私は剤型を変えるくらいしかできなかった」という自分自身にショックを受けました。

「高齢者の服薬支援を、介護の必要な方やケアを行う方に、エビデンスをもとに伝えるにはどうしたらいいのだろう」と思っていたときに出会ったのが富田先生でした。患者さんに薬を飲んでもらうために情熱を持ちながら研究されていることに感激しました。富田先生から松尾先生をご紹介していただき、研究を論文に落とし込み、クオリティを保ちながらスピーディに世間へ情報を発信する姿に尊敬の念を持っています。

 

とろみ剤の濃度・浸漬時間が医薬品に及ぼす影響

 

富田先生 小原先生がおっしゃるように、嚥下障害を発症している患者さんに「どのように薬を飲んでもらうか?」ということは医療上、非常に大切な考え方となります。

岩手医科大学に所属していた際、介護保険施設を対象としたアンケート調査を実施し、服薬時にとろみ剤を使用している割合を調査しました。その結果、高頻度で服薬時にとろみ剤が使われていることが判明しました。また、服薬時に使用するとろみ剤の濃度や、錠剤をとろみ剤に浸漬する時間なども調査しました。そうすると、とろみ剤は比較的高濃度で使用され、錠剤の浸漬時間も比較的長時間であることがわかりました。

 

小原さん この情報を研究にどのように生かしていきましたか。

富田隆先生

富田先生 実験レベルですが、服薬時にとろみ剤を使用することで、「錠剤がどの程度の時間で崩壊していくのか」「錠剤の成分がどの程度の割合で溶け出していくのか」をチェックした結果、錠剤の崩壊時間が遅延してしまうこと、錠剤の成分が溶け出しにくくなってしまうことがわかりました。

これは「とろみ剤を使って薬を服用したとしても、十分な薬効が得られない」ということを意味します。

さらに、健常成人に血糖値を下げる薬を経口投与する試験を実施しました。具体には、とろみ剤の濃度を「高濃度」、錠剤の浸漬時間を「長時間」という介護保険施設での状況を再現すると、「血糖値が下がらない」という事実もわかりました。そこで松尾先生に「服薬時におけるとろみ剤の至適使用法の確立」という研究テーマで共同研究を打診しました。

共同研究の成果として、錠剤をとろみ剤に浸漬させる時間を短時間にすることで、錠剤の崩壊に及ぼす影響が少なくなることが分かってきました。この論文はすべて松尾先生から対応してもらいました。

 

松尾先生 まさに今富田先生からお話しいただいた通りです。時間を短くすれば錠剤がきちんと崩壊したので、「この状況で薬を飲んだ方が良いのでは」ということを最近になって論文で報告させていただきました。私はぜひ、こういった情報(研究成果)を医療現場で活用していただきたいと思っていますが、情報を拡散していくノウハウを持っておらず、これをどのように確立していくかが私たち研究者の課題だと位置付けています。

 

小原さん ぜひ私自身も、先生方のような熱意を持った研究者がいること、そして素晴らしい研究成果があるということを現場の薬剤師やコメディカルの方々に伝えていきたいと思います。

薬剤師はコミュニケーション不足と言われていますが、その背景には「臨床現場の直接的な服薬支援の不足と薬剤服用時における薬剤環境の情報不足」ということがあります。薬のことは添付文書に記されていますが、それは実臨床で起こったことの全てではありません。薬剤師が個々の患者さんの服薬状況や、その方に適した服薬支援の方法を、エビデンスを紐付けてコミュニケーションの中から探るスキルがまだ少ないと思います。ですので、先生方が研究されている内容は、薬剤師が自信を持つために、非常に役立つことだと思ってなりません。松尾先生はどのように考えていますか。

 

“知りたいニーズ”を吸い上げ現場で活用できる研究成果を追う

松尾泰佑先生

松尾先生 確かに、臨床という切り口で論文を調べるとデータが少ないと言うことがわかります。現場で働いていらっしゃる薬剤師から具体的に「こうしたことが知りたい」というリクエストがあれば、研究者としてぜひチャレンジしたいという姿勢です。薬剤師の“知りたいニーズ”をきちんとデータを取って、論文として報告をし、現場の薬剤師から活用してもらうことで薬剤師の自信にもつながってくると思います。

 

小原さん 今後、薬剤師だけではなくドラッグストアでいうと、管理栄養士や登録販売者などそれぞれの健康を支える専門職がいます。ドラッグストアに役に立つ情報として先生方の研究成果が活用されていけば、お客さま自身のヘルスケア推進にも役立っていきますね。先生方の、これからの展望についてお聞かせください。

 

富田先生 介護保険施設の介護従事者とお話しした際、「PTPシートから薬を取り出して服薬介助することができない」という問題を聞きました。この問題は、一包化できない錠剤の存在が原因になっています。錠剤が一包化できない理由の1つに、一包化する際に錠剤が空気中の水分を吸ってしまい錠剤の機能が低下してしまうことが挙げられます。そのため、PTPシートのまま調剤しているということなのです。介護施設に看護師や薬剤師がいなければ、PTPシートから薬を取り出せないということは「薬を飲んでもらえない」ということにつながりかねません。

この問題が私の研究課題の1つとなっており、現在「吸湿し易い錠剤を一包化するための調剤方法の確立」を研究テーマとして、松尾先生と研究しています。

私たちの研究としては、薬剤師というフィールドに囚われずに、患者さんを取り巻く医師・看護師・介護従事者等も含めた全ての方々に対して情報発信をしていきたく、ここを狙って研究テーマを模索しています。

 

松尾先生 これに関しては、吸湿性がある医薬品の一包化に利用できる袋やシートを作り、それを臨床まで還元できる形を取りたいというビジョンを持っています。富田先生が非常に頑張ってくださり、最近では多くの方々とお仕事をさせていただく機会も増えておりますので、実現する可能性は高まってきていると感じます。何とか、臨床の方に使っていただけるところまで仕上げていきたいと思います。

また、先程もお話ししましたが、現場で困っていることがあればぜひ教えていただきたいと思います。「現場からのニーズを反映させた研究と、その研究成果を活用してくれる現場」というのが理想的な形であると考えており、これを実現させることが、私たちにとっての最大の課題であると思います。

 

小原さん 私たち薬剤師も現場の薬剤師もお客様に信頼頂き、寄り添っていくにはもっともっと勉強しなければなりませんね。そこで活用できる有意義な情報として先生方の研究を現場で生かしていけたらと思っています。先生方、本日はありがとうございました。

 

◎富田先生と松尾先生に「こうした研究をしてもらいたい」とリクエストがあれば、ヘルスビジネスマガジン社・佐藤(sato@health-mag.co.jp)までご一報ください。

 

 

 

以下、両先生のご経歴

富田隆(とみたたかし)

帝京平成大学 薬学部 教授、大学院薬学研究科 教授

2019年4月〜現在 帝京平成大学 薬学部 教授、大学院薬学研究科 教授

2019年4月〜現在 岩手医科大学 薬学部 客員教授

2018年1月〜2019年3月 岩手医科大学 附属病院 薬剤部 副薬剤部長

2016年1月〜2019年3月 岩手医科大学 薬学部 臨床薬学講座 臨床薬剤学分野 准教授

2013年6月〜2015年12月 医療法人 清風会 ホスピタル坂東 薬剤部 部長

1999年4月〜2013年5月 筑波大学 附属病院 薬剤部

 

松尾泰佑(まつおたいすけ)

岩手医科大学 薬学部 医療薬科学講座 創剤学分野 助教

2014年4月〜現在 岩手医科大学 薬学部 医療薬科学講座 創剤学分野 助教

2008年10月〜2014年3月 徳島大学 疾患ゲノム研究センター(現・先端酵素学研究所プロテオゲノム研究領域)

ゲノム制御学分野 特任助教・助教

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