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クローズアップ在宅医療・介護⑥

特別対談 日本ヘルスケア協会・小原道子さん×日立製作所・丹藤匠さん

ヘルスケアの可能性を広げる感染症予報サービス②

感染症予報サービス、ローンチ

予防意識高めて感染リスク下げる

小原道子さん(日本ヘルスケア協会・理事)がさまざまなキーパーソンと対談する連載企画「クローズアップ在宅医療・介護」。今回は特別対談として、感染症予報サービスを正式にローンチした日立グループから、その生みの親である丹藤匠さん(日立製作所 研究開発グループ 計測・エレクトロニクスイノーベーションセンタ ナノプロセス研究部 主任研究員 工学博士)をお迎えした。前号の「月刊H&Bリテイル」で感染症予報サービスについての詳細をお伝えしたが、今回は開発経緯やローンチまでのストーリー、そして今後どのような場で活躍するサービスなのかを小原さんと丹藤さんに語っていただいた。

(記事・写真=佐藤健太)

 

社会的意義が高まるヘルスケア=予防

小原さん ところで、感染症予報サービスはどのような背景・思いで開発されたのでしょうか。

丹藤さん 「子どもたちが感染症に罹患して欲しくない」というプライベートでの思いが開発のきっかけといえます。やはり子どもは感染症にかかりやすく、特に乳幼児のうちは注意が必要だと思います。私も子育て中ですが、子どもが感染症に罹患してしまうと、まず親として子どもが苦しんでいる姿を見るのが辛いです。そして、仕事でもプライベートでも急に予定を変えなければいけない、という大変さもあります。そのような経験の中で、「自分が欲しいサービスは何か?」と考えたときに、「子どもを感染症から守るサービスがあったらいいな」と思い、また「自分自身がそのようなサービスを開発できたら」と思うようになりました。

 

小原さん 確かに子育て世代の方々において、こうしたニーズは強いように感じます。最近では共働きが多い環境と共に、核家族世帯が中心です。急な体調変化などがあった場合、安心して子供を見てもらう場所になかなか辿り着けません。現在、子供が感染症にかかった場合、その対処方法として受け入れ先の情報の確認や、或いは仕事の調整など、子育てをしている保護者自身の負担が増加していますね。

 

丹藤さん 子どもの感染症について調べてみますと、子育て中の親の共通の悩み事であり、ある意味“社会課題の1つ”であることがわかりました。解決策をいくつか考える中で、子育て中の友人らに「自分が住む地域において感染症の流行時期を(天気予報のように)事前に知れたら、子どもの感染症予防に役立つのでは?」と、一つのアイデアを話してみると、多くの賛同が得られました。このため、サービスを本格的に検討することにしました。今回開発した感染症予報サービスは、地域ごとの4週間先までの流行度を予報することができ、「自分が住んでいる地域で、いつ感染症が流行する」ということがピンポイントでわかります。このため、流行時期を意識しながら、より効果的に予防行動がとれるようになると思います。

 

小原さん 住民の一人一人が感染症に対しての意識を高めることで、感染症の流行を阻止することができ、引いては医療機関の混乱や社会保障費の抑制にもつながっていくため、このサービスを活用することは社会的にもとても大きな意味があるように思います。丹藤さんの思いが形となったサービスなのですが、実際にビジネス化するにあたって、どのようなストーリーがありましたか。

 

多くの出会いが育んだ感染症予報サービス

 

丹藤さん 本当にゼロベースからのスタートでした。数枚の企画書から始まり、それが徐々に形になったという流れです。日立グループ内で行われた新事業のビジネスアイデアコンテストに応募すると上位に食い込むことができ、これが事業化への大きな一歩となりました。ですが、実際に「ビジネス化を目指そう!」と思っても、当初は何から始めればいいのかわからないという状況でした。

社内だけではなく社外の方々にもお会いし、この取り組みについて紹介させていただきました。その際に、たくさんの方々から「だったらこうしたらいいんじゃない?」と具体的にアドバイスをいただけ、小原さんもその1人でした。皆様にはとても助けていただいたと感謝しています。

このような形で徐々に話が広がり、形も少しずつ見えてきました。昨年、皆様のご協力をいただきながら、「インフルエンザ予報サービス」としてさいたま市で実証実験を行い、利用者である住民の皆様から好意的な評価を得ることができました。日立グループ内でも、中川(日立社会情報サービス 営業推進本部 販売促進部 主任 中川慎太郎さん)など、思いがある人たちと出会うことができ、無事に感染症予防サービスをローンチできるところまで来ました。

 

小原さん 新たなサービスを生み出すのは非常に大変なことだと思います。それが社会に役立つものだと思っても、発想や情熱を形にしつつ周囲の理解を得るのは、なかなか難しいことだと感じています。開発当初、社内からはどのような声がありましたか。

 

丹藤さん 初めて会社に企画書を提案した際は、大きく2つの反応がありました。1つは「感染症を社会課題として捉えている視点は良い」と言う声です。「この市場が大きいから、そこにサービスを投入しよう」という動きではなく、自分の悩み事から社会全体の課題を見つけて、その解決策を提案した点が評価されました。

もう1つは「実現はなかなか難しいのではないか」と言う声です。「数日後にこの感染症が流行します」という情報を世の中に出してしまうと、利用者が不安になり、風評被害などが発生してしまうケースも想定されました。

要するに、「目の付けどころは良いけれど、実現手段としてその方法が本当に正しいのか」ということです。感染症予報サービスを検討するにあたっては、サービスのあり方や社会的意義にも配慮することが重要だという示唆をいただきました。

 

ゼロベースからのスタート 10月30日、ローンチ

 

小原さん 丹藤さんと初めてお目にかかった時に、工学博士と書かれている名刺を拝見して感激したことを憶えています。これからは異業種同士が繋がり、互いの専門分野を融合し、社会に還元するスタイルになると感じていました。工学博士でもある丹藤さんについても少しお聞きしたいのですが、どのようなバックグラウンドをお持ちなのでしょうか。

 

丹藤さん 日立製作所に入社してからは主にナノテクノロジーに関わる研究開発に携わってきました。その中で、電子顕微鏡を使ってウイルスを観察する機会もありました。ウイルスに興味を持ってあれこれ考えているうちに、子どもが感染症に罹患して困った経験も重なり、これらが感染症予報サービスを発想するための下地になったと思います。

 

小原さん なるほど。これまでの研究から沸いた関心が、感染症予報サービスの開発にも繋がっているということですね。“ウィルスの見える化”という発想は、図らずも現在の新型コロナウィルスにも関係していると思います。2020年初頭から多くの死者や感染者を出している新型コロナウィルスですが、未だ猛威をふるい、どこに潜んでいるか判らない恐怖は拭えません。世界全土で人々は多くの不安を感じ、生活様式が劇的に変化しています。感染症に備えることが出来れば、或いは可視化出来ればと、本当に思います。10月30日にローンチされた感染症予報サービスですが、開発に当たって「苦労したなぁ」と思うところはありますか。

 

丹藤さん やはりゼロベースから始めたところです。例えば、さいたま市での実証実験の準備においては、実証に必要なサービス内容を検討しながら、同時並行でシステム開発を進めました。つまり、システム開発はスピード勝負でした。そうなると社内のリソースだけではやり切れない部分もありますので、社外の企業にもご協力を頂きながら、オープンイノベーションで迅速な開発を実現しました。

 

「企業の枠組みを超えて思いでつながった」

小原さん このような中、さいたま市で実証実験が実施されたのは素晴らしいことだと思います。

丹藤さん 実証実験については、もちろん「ぜひ実施したい!」という思いがありましたが、なかなか最初はきっかけがつかめませんでした。ですが、社内・社外において構想の説明を繰り返すうちに、徐々に感染症予報サービスの世界観に賛同してくださる仲間が増えていきました。そして、皆様にご支援いただきながらさいたま市で実証実験ができるという話に繋がっていきました。このように取り組んでいく中で、小原さんとも知り合うことができました。

自分の中でとても印象深く残っているのは、協力してくださる各団体の皆様は、「感染症の罹患者数を減らして、世の中をもっと良くしたい」、ひいては「社会に貢献したい」という強い気持ちを持っておられる方が多かったと言うことです。私の思いを話すと「だったら、うちではこういう協力ができる」と前向きに考えて下さる方が多くいらっしゃいました。「組織の枠を超えて思いでつながっていける」、この経験はとても貴重であり、素晴らしいものでした。実証実験が始まる前は、準備などで多忙を極めたのですが、こうしたありがたさを感じながら進められたことは、私の原動力になりました。

小原さんは感染症予報サービスを知った際に、どのような印象を持ちましたか。

 

小原さん 「そうだよね、なぜ今まで気付かなかったんだろう!」と衝撃が走りました。予防に関しては、インフルエンザなどが流行ってから「困った困った」とネガティブな思いを持ちながら取り組むケースが多かったと思います。事後に悩むよりも、やはり、備えながら予防に取り組めるという意味では、“街の健康ハブステーション”を目指すドラッグストアからの視点からも良いことですし、一個人としても「誰もが幸せになることが出来るサービスだ」と率直に思いました。

 

地域包括・ドラッグストアで役立つ感染症予報

丹藤さん ありがとうございます。小原さんはウエルシアホールディングスで在宅医療の推進をしつつ、日本ヘルスケア協会でも積極的に予防や介護分野で活躍しています。そのような立ち位置から、感染症予報サービスのご活用において、どのような可能性を感じていますか。

 

小原さん 日本ヘルスケア協会はその名の通り、予防に主軸を置いている団体です。私は在宅感染症予防部会やドラッグストア在宅介護推進部会、フレイル部会などに部会長や副部会長として参加していますが、これらは予防と介護が中心となっています。

特に高齢者に関しては感染してから重篤化する確率がとても高く、最も予防に力を入れるべき世代であると言えます。介護施設や地域包括支援センターなどで感染症予報サービスを当たり前のように活用できれば非常に有用であると感じています。

また、ドラッグストアは健康な方が気軽に来ることができる店舗で、そこには薬剤師という医療従事者が存在しています。そういう意味では、地域で最も身近な医療機関なのです。

薬剤師とお客さまが健康なときから付き合っていくことで、自分が出来る限り病気にならないように、あるいは健康でいられるように、しかも楽しく生活していけるようにアドバイスをしたり、商品を通じて元気を差し上げることができるので、薬剤師は予防という観点で他の医療従事者よりも貢献できるポテンシャルを持っています。

ですが、先程も申し上げましたように感染症は目には見えません。あらかじめ、感染症予報サービスでこうした情報を知ることができれば、薬剤師が予防に対して一歩進んだ提案ができるようになると思います。例えば、マスクや消毒液など予防に対応する商品の在庫を多めに在庫を抱えたり、予防をさらに強く訴求した売り場形成ができるようになります。そうした上でお客さんに声掛けをしていけば、その地域の感染リスクをガクッと下げられるのではないでしょうか。

 

丹藤 なるほど。お客さまのヘルスケア意識を早期に高めることができるということですね。

小原さん 感染症予報サービスを活用することによって、売り手であるドラッグストアと買い手であるお客さま、それぞれの意識が変わってくるでしょう。そうだとすれば、予報が完全に当たらなかったとしても「予防したことで回避できた」という信頼感と安堵感が芽生えてくると思います。そういう意味でドラッグストアとは非常に親和性が高いと思います。

地域包括ケアシステムの情報の付加価値としても活用できる可能性も十分にあります。感染症予報サービスは医師や看護師、介護従事者だけが使えるものではありません。どなたでも使うことが出来るサービスだということが非常に大きいことだと思います。地域包括ケアシステムは、「住まい」「医療」「介護」「予防」「生活支援」が切れ目なく一体的に提供される体制です。現在はこの体制の実現のため、特に「自助」として自分自身のケアが望まれています。市町村などの各自治体が運営する地域包括支援センターは、医療・介護・福祉の専門家が一つの屋根の下で一緒に仕事をしている場ですので、こうした方々にも利用できるサービスだということはとても大きいと思います。「資格がないから使えない」というものではないですし、誰しもが平等に予防として取り組めるサービスであるとことが非常に重要なことだと考えています。

今後の感染症予報サービスの動きについて教えてください。

 

活用した先に見えるイノベーション

 

丹藤さん 10月30日に正式にサービスをローンチしました。まずは自治体向けにサービスをご提供いたします。2019年度にさいたま市で実証実験を実施しまして、多くの住民の皆様から「今後も継続的にサービスを利用したい」との評価を頂きましたので、同様に全国の自治体にもご案内し、サービスを広げていけたらと考えております。

その次の展望としては、民間企業の皆様にも使っていただきたいと思っています。小原さんのお話にもありましたが、「そろそろ感染症が流行りそうです」と予防関連商材をレコメンドすることで、地域の皆さんの予防意識を高めて予防行動を促し、感染症の罹患率を下げていくということを実現できるのではないかと考えます。世の中の皆さんが病気になりにくい環境を作っていくことに寄与できるものだと思っています。

感染症予報サービスの利用用途は広く、様々な活用シーンが考えられます。これまで民間企業の方々と意見交換をさせて頂いた結果、販売促進や在庫調整、生産調整などに活用できる可能性も見えてきました。今後は、このサービスを民間企業向けにご提供しながら、皆様のビジネスに新しいイノベーションを起こしていけたらと考えております。もし本サービスにご興味がある方がおられましたら、ぜひ気軽にお声掛け(お問合せ)いただければと思っております。

 

感染症予報サービスの詳細はこちら

https://www.hitachi-sis.co.jp/service/bigdata/sicknews/

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