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在宅医療では「患者ファースト」という思いが不可欠

この対談をお読みいただければ分かるが、キーワードは「患者ファースト」だろう。今回で4回目を迎えた小原道子さん(日本ヘルスケア協会・理事、岐阜薬科大学・特任教授)の対談企画は、ウエルシア薬局で在宅医療に奔走する薬剤師・友部賢さん(調剤運営本部在宅推進部)をゲストに迎えた。7年間在宅医療に取り組み、そのかたわらで後輩薬剤師への教育に注力している友部さん。多職種が連携する在宅医療の現場から高く評価されているが、どんな姿勢で薬剤師としての仕事をまっとうしているかにスポットを当てた。(記事・写真=佐藤健太)

小原さん(右)とゲストの友部さん

 

小原さん 友部さんが薬剤師に目指したきっかけとドラッグストアでのどのようなキャリアを歩んできたのかを教えてください。

 

友部さん 高校が理系で、卒業後に医学部か獣医学部かで迷っていました。ところがあるとき怪我をしてしまい、3ヶ月ほど入院していた時期がありました。ドクターから手術、看護師から日頃フォローしてもらいましたが、手術後は耐えられないほどの痛みに悩まされていました。病院薬剤師が持ってきてくれた鎮痛剤を服用すると痛みが引き、そのときに「なぜ小さな薬を飲んで、傷痕の痛みが取れるのですか?」と聞くと、とても丁寧にその医薬品が効果を発揮するまでのプロセスなどを教えてくれ、医薬品の素晴らしさに気付き、患者である私自身に対して、しっかりと納得がいくまで説明してくれた薬剤師に憧れを持つようになったのが第一のきっかけです。両親が薬剤師であるわけでもなく、自らが進んで薬剤師の道を選びました。

当時、薬学カリキュラムは4年制であり、私が大学3年生だったころ「このまま学校を卒業してしまうのはつまらない。もっと研究をしたい」と強く思い、大学院に進学することにしました。所属していた研究室の教授の伝手で国立感染症研究所で研究ができることになり、大学4年次と大学院の2年間は研究に注力してきました。

当時の私は、大学院の講義のない日は朝から晩まで研究室にこもり、C型肝炎を研究し、気がつけば1日が終わっているという環境でした。そうした毎日を繰り返すなか、「せっかく薬剤師の免許を持っているのに、このままでいいのかな?」と疑問や葛藤を持つようになりました。

ある日、母親から「このサプリはどう体にいいの?」と聞かれたことがありました。そのときは説明することから逃げてしまいましたが、あまりにもたくさん聞いてくるので、自分で調べ教えているうちに「薬剤師として私がしたいことは、研究ではなく、目の前にいる人と話しながら、専門的な知識を生かし、その人のヘルスケアにおけるQOLを高めていくことだ」ということに気づきました。

そして就職を考えたときに、調剤だけに取り組む薬局ではなく、サプリメントやOTC医薬品、日用品など幅広く取り扱っているドラッグストアを選びました。当時、神奈川県に住んでいましたので、すぐにCFSコーポレーション(当時のハックドラッグ運営企業、現在はウエルシア薬局に統合)に「ドラッグストアで働きたい!」と電話をかけていました(笑い)。

当時、人事部長だった貴田さんに会いに行き、3時間も熱く語っていただき、中途面接を経て、無事にハックドラッグの店頭に立つことができました。とても嬉しかったですね。

逆に小原さんが在宅医療を意識し始めたのは、どのタイミングだったのでしょうか。

 

小原さん 私が最初に在宅医療を意識したのは、自分が訪問薬剤師として活動をするようになった事がきっかけです。訪問薬剤師として在宅医療をスタートしたのは、今から25年前の1995年頃です。当時は在宅訪問をしている薬剤師は周りにはいませんでした。介護保険もまだ無かったので、訪問時の心得みたいなものは全て、ご一緒したクリニックの医師や看護師に一つ一つ学ばせていただきました。薬剤師として在宅で何をすべきか、どんなことが求められているのかというのは、訪問するたびに患者さんや家族から教えられました。

例えば最初は「今日は気が向かないから薬飲まないんだって」などと家族から聞いても、返す言葉はありきたりの言葉でした。しかし、色々事情を聴くと、「飲まない理由」「飲めない理由」が必ずあるものです。窓口業務だけでは見えなかった患者背景と患者さんの日常生活の中の医療支援が結び付いていくことに気づいたときに、「患者さんの唯一の治療手段となる薬こそ、在宅で確認すべき」という気持ちが生まれた気がしています。

当時はハックドラッグ店頭で薬剤師をしていた友部さんですが、現在はウエルシア薬局の在宅推進部で活躍しています。在宅医療との出会いを聞かせてください。

友部さん 1年目に配属された店舗は、1ヶ月に処方せん400枚ほどの調剤併設型ドラッグストアでしたので、物販から調剤までオールマイティに働けることが望まれました。2年目は、また別の調剤併設型ドラッグストアで管理薬剤師を担当しました。

在宅医療との出会いは3店舗目に異動したときでした。そこは横浜市立みなと赤十字病院の近隣のハックドラッグ新本牧店であり、自分が配属されてからみなと赤十字病院の薬剤部と連携を取るようになりました。

そこで退院時カンファレンスなどにも参加させてもらい、同じドラッグストアで働く仲間たちと「退院時カンファレンスまで顔を出させてもらっているのだから、その患者さんをうちの店舗で受けさせてもらった方が絶対にいいよね」と話すようになりました。そして「在宅医療の患者を獲得しよう!」と動き始めたときに、私が本部に異動になってしまいました。

本部には在宅医療をフォローするフローター的な役割の人物がいたのですが、病院薬剤師に転職してしまったので、まだ施設や個人在宅の経験もなかったにもかかわらず、私が担当するようになりました。それから在宅医療にどっぷりとはまり続けて7年を迎えました(笑い)。

 

小原さん ドラッグストアの薬剤師は、友部さんが仰るように物販から調剤まで健康にかかわる生活支援を出来ることが一番の魅力だと感じています。地域医療に参画している専門職の方を見渡すと、素晴らしい手技を持ち、判断能力もありますが、薬も含めて必要とされるモノを持っていないことに気づきます。ある訪問医から「僕たちは確定診断をするけれど、患者さんを助けるための薬や日常の生活支援に関わるものは薬剤師さんが全て持っているよね」と言っていただいたことが印象に残っています。

最近、ある薬剤師から「患者さんに服薬支援として話す内容は、薬のことだけでなく栄養のことや生活のことも聞かないと、根本的な健康支援が出来ないんですよ」という頼もしい話を聞きました。このような事を考えると、例えば管理栄養士とタッグを組んでいくことも、患者さんの健康支援に大きく貢献できると考えており、地域医療を支える一翼を担えるのではないかと思っています。

在宅医療と関わることによって、友部さんは薬剤師としてどのような視点を持つようになりましたか?

 

友部さん 在宅医療に関わる前、「薬局で調剤、ドラッグストアで物販、その上で在宅に関わるなんて、よく外に出ていく時間を作れるなぁ」と思っていました。在宅医療に対応する薬剤師は、ドラッグストアの薬剤師とは違う職種を見るような感じで捉えていました。しかし、みなと赤十字病院との関わりを経て、「チャレンジしたい」と、在宅医療に対して前向きに考えるようになりました。

いざ施設で在宅医療に携わるようになってから、まず感じたのは「ドクターとの距離の近さ」です。往診に同行しますので、これまで電話で疑義照会としてやりとりしていた作業が、直接伝えられるようになったのはドクターにとっても薬剤師にとっても画期的ですし、最終的には患者さんに還元される部分なので、より「患者ファースト」の医療に帰結すると思います。また、自分の経験では、電話越しに怒鳴られたこともありますし、こちらが伝えたいことが電話ではどれだけ伝えられていたのだろうかと考えさせられました。

施設在宅においても、私が在宅医療に参画して間もなくということもあり、介護職や看護師など多職種の方々から多くの指導をいただけました。私自身、コミュニケーションを取るのは好きですので、介護職の方々が困っていたら薬剤師としての知識でフォローできるところは解決していきたいですし、看護師ですと「差し出がましいとは思いますが、薬剤師として思ったことはきちんとお伝えしたいと思います」と進んで連携を取るようにしてきました。コミュニケーションを取ることで患者さんのQOLが高まるならば、医療従事者として、最大限の努力をすべきだと考えています。

 

小原さん 研究の道に進んでいた友部さんですが、在宅医療の道に切り替えて、今振り返るとどうですか?

 

友部さん 大正解だったと思います。最初は「母親や近所の方々の疑問に答えよう」という軽い気持ちだったのですが、自分が持っている知識を提供したことで感謝していただける仕事は接客業です。研究職は、最終的に新たな医薬品を開発した結果、何万人が救われるという仕事ですが、直接的に目に見えるものではなく、研究に没頭すれば没頭するほど進んでいる方向がわからなくなってしまうこともありました。とても楽しい仕事ではありましたが、合っているか合っていないかと言われれば、研究職よりも、在宅医療に取り組む薬剤師の方が自分の生き方に合った仕事だと確信しています。

小原さん 数年前、友部さんと一緒に在宅推進部で働いていましたが、友部さんは特に初動が早いという印象を持っています。

やはり、在宅医療の現場は様々な悩みが発生しているからこそ多職種連携が重要になっているのです。決して、専門家同士が仕事を押し付け合っているわけではありません。在宅医療に関わる専門家たちがフォローし合うことで、医療にもスピード感が出ますし、それが最終的に患者さんに還元されます。

医療従事者的な側面のスピード感を意識しなければ良い医療の提供につながりません。初動が早ければ、次の提案についてもドクターと薬剤師の間で出来ることによって、確定診断という部分と直接患者さんの体内に入っていく薬剤がコミットしてきますので、例えば患者さんの痛みや不安の軽減が早くなります。つまり、初動が早いと解決が早い。それが良い医療の重要項目の1つだと位置付けています。

店舗で調剤業務をしていると「この時間帯だったら手が空く」というように自分の仕事を第一に考えがちなのですが、そこは「患者ファースト」で考えなければなりませんし、友部さんは「時間をどう作るか?」という部分に執着して仕事を進めていますので、とても素晴らしい人財だと思っています。

友部さんは在宅医療に関わってきて、印象に残る患者さんはいましたか。

 

友部さんが心に秘める“薬剤師のプライド”とは

 

友部さん 現在私は東京のエリアを担当しており、その中でのお話になります。ドクターから終末期の患者さんの依頼を受けることが多々あります。今まで一度も対応したことがなかった患者さんなのですが、ドクターから「今から麻薬を出したい」と連絡があり、どこで麻薬が揃うのかもわからない状態で、麻薬がある店舗へ取りに行き、患者さんの自宅に届けたことがあり、その患者さんはその日に亡くなられたと聞きました。この出来事がとても印象に残っています。

私はドクターから「今週がヤマの患者さんで、痛みを和らげてあげたいから、麻薬を出したい。ウエルシア薬局のどこのお店に処方せんをFAXを出せば対応してもらえますか?」と言われただけでしたので、お届けするまでにどのような現場で、どのような患者さんなのかわからない状況でした。

麻薬を持って、現場に到着すると家族全員が患者さんを囲み、本当に今日明日が峠という状況でした。そこに薬剤師である私が「先生から苦痛を和らげる薬が出ました」とすぐに貼り薬を渡しました。私の役割はここまでですので、店舗に帰ったのですが、翌日にご家族からお電話をいただき、「亡くなりましたが、最後の何時間は苦痛が和らぎ、安らかな顔で最期を迎えることができました。ありがとうございます」とお話ししてくださいました。

私が1時間早く到着できれば、もっと早く苦痛を和らげることができましたので、「そのお言葉はありがたくちょうだいしますが、遅くなってしまい、むしろ申し訳ありません」としか言えませんでした。

しかし、結果的にあんなに感謝されたことはありませんでしたし、ドクターからも「実は、友部くんに電話をかける前に、たくさんの薬局にアプローチをしました。ですが、どこも今日中の対応ができないと言われてしまい、やっと捕まったのが友部くんでした」と伝えられました。ドクターからもとても感謝していただけました。

それ以降も、年間5〜6名の患者さんの看取りに立ち会っていますが、この経験をとても大切にしています。麻薬が揃わないという現場の困難な現状があり、手元に麻薬がなく、医薬品卸に電話をかけても土日で対応できないというケースもあります。ですがチェーン展開しているウエルシア薬局は、多少遠くても、処方された麻薬を全て在庫している店舗さえあれば対応できるという強みを持っています。

これからの時代は在宅医療が確実に増えていきます。それは終末期の患者さんの現場が増えていくことを意味します。そんな環境にもかかわらず、どうしてこんなにも麻薬が揃わないんだというジレンマはありますが、すべての在庫を揃えておくというのは現実的ではありません。ドクターに「使う麻薬をある程度教えてもらえれば、揃えておきますよ」と言っても、「痛みの状況や種類で使用する麻薬は変わってきます」と返されてしまいます。そこが上手く、制度的になっていけばもっと早く届けられると思います。

麻薬に対して、私は「スピード勝負」だと考えています。ドクターから「2時間で届けて!」と要望があった際に、2時間で届けたら「負け」だと思っています。「2時間と言われたら1時間半で届けたい」…。それが薬剤師である私のプライドでもあります。

私は後輩の薬剤師に「麻薬がありませんと対応するのは簡単だけど、その先を想像している?その患者さんは麻薬がないと苦しむし、その結果、そのまま亡くなってしまったら、薬剤師として後悔とか残らない?」と話しています。これは仕方がないことなのですが、現場経験が浅い薬剤師は想像力が足りません。そういうところは自分の経験を語って、後輩と共有し、「患者ファースト」の薬剤師が一人でも増えていくように教育しています。

 

小原さん 在宅医療は、どの現場をとっても同じ状況の現場はありません。現場ごとに「薬剤師としてどのように対応すれば患者ファーストになるのか」ということを瞬時に判断し、行動に移すことが何よりも大切になります。

今まで、薬剤師業務は処方せん調剤を通じて患者さんを待つ立場、処方せんが来るのを待つ立場という受け身の仕事が多かったと思います。しかし、友部さんのようにお看取りの患者さん対応などを経験されることで、命の重さに改めて気づいた薬剤師は、「今、出来ることを精一杯させて頂きたい」という積極的な気持ちになると感じています。

今回新型コロナウイルスの感染拡大の中「エッセンシャルワーカー(日常生活における必要不可欠な業務を担う方々)」という単語を耳にするようになりましたが、まさに在宅医療を推進する中でエッセンシャルワーカー同士の連携は欠かせません。それぞれの専門分野で自発的に地域支援を行うことが、今在宅医療の現場にも改めて問われていると思います。

友部さん、今回は熱い思いを語っていただき、ありがとうございました。

 

 

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