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病原体成分がT細胞を活性化するメカニズムを解明 -感染症や自己免疫疾患の新たな治療法の開発に期待-

理化学研究所(理研)生命医科学研究センター免疫シグナル研究チームの今西貴之上級研究員、斉藤隆チームリーダーらの共同研究グループは、T細胞[1]の病原体センサーがT細胞を活性化する分子機構を明らかにしました。

本研究成果は、感染症や自己免疫疾患[2]の新たな治療法の開発に貢献すると期待できます。

ウイルスや細菌などの病原体が私たちの体に侵入すると、病原体センサーの「Toll様受容体(TLR)[3]」が感知し、自然免疫応答およびその後の抗原特異的な獲得免疫を誘導して、病原体を排除することが知られています。TLRは、主に樹状細胞[4]マクロファージ[5]などの自然免疫[6]を担当する細胞に発現し機能していることが知られていますが、近年、獲得免疫[6]の中心的担い手であるT細胞にも発現し、T細胞の「Toll様受容体2(TLR2)」が感染免疫応答だけでなく、自己免疫疾患や抗腫瘍免疫にも重要な役割を果たすことが報告されています。

今回、共同研究グループは、TLR2がT細胞を活性化する分子機構を解析しました。その結果、T細胞抗原受容体(TCR)[7]を介したT細胞の活性化に伴って、TLR2の下流の「TIRAP」と呼ばれるシグナル伝達分子の発現が誘導され、発現したTIRAPによってTLR2を介するシグナルが活性化されて、T細胞が病原体に反応できるようになるメカニズムが明らかになりました。

本研究成果は、オンライン科学雑誌『Cell Reports』(7月21日付:日本時間7月22日)に掲載されます。

T細胞の病原体センサーToll様受容体2(TLR2)がT細胞を活性化するメカニズムの図T細胞の病原体センサーToll様受容体2(TLR2)がT細胞を活性化するメカニズム

背景

私たちの体を防御する免疫システムでは、まず身体に侵入した病原体を感知することが重要で、免疫を担う細胞には、病原体を見分けるセンサーとしてパターン認識受容体[3]が備わっています。パターン認識受容体は、病原体に特有の構造を認識して、迅速な自然免疫応答を誘導するとともに、その後には抗原特異的な獲得免疫応答の活性化を効果的に誘導することが知られています。

「Toll様受容体2(TLR2)」は、細胞表面に発現するパターン認識受容体の一つで、TLR1またはTLR6と二量体を形作ることにより、細菌や真菌、ウイルスなどの幅広い病原体の成分を認識することが知られています。TLR2は、自然免疫をつかさどる樹状細胞やマクロファージなどの細胞のみならず、獲得免疫の中心を担うT細胞にも発現して機能し、感染免疫や抗腫瘍免疫、自己免疫疾患の誘導に重要な役割を果たすことが報告されています。

斉藤隆チームリーダーらは、抗原にさらされたことのないナイーブT細胞[8]はTLR2によって活性化されないのに対して注1)、ナイーブT細胞が活性化して分化したエフェクターT細胞[9](感染防御に重要なTh1細胞[9]や、ウイルスや腫瘍の排除に重要な活性化CD8T細胞など)は、直接TLR2によって活性化されることを明らかにしてきました注2)。しかし、なぜナイーブT細胞は活性化されないのかなど、TLR2によるT細胞活性化のメカニズムは不明のままでした。そこで今回、共同研究グループはTLR2によるT細胞活性化の分子機構を調べました。

研究手法と成果

エフェクターT細胞は、TLR2のリガンド(受容体を活性化する分子)で活性化されるのに対して、ナイーブT細胞は活性化されません。そこで、共同研究グループは、ナイーブT細胞と、エフェクターT細胞の一種であるTh1細胞におけるTLR2の下流のシグナル伝達分子の発現の違いを調べました。その結果、これらの細胞では、TLR2を介する活性化シグナルに必須の役割を果たすアダプター分子[10]「TIRAP」の発現が異なることを見いだしました。TIRAPの発現は、ナイーブT細胞ではほとんどありませんが、ナイーブT細胞をTCR刺激で活性化すると上昇し、Th1細胞に分化した後でも、TIRAPの発現は維持されることが明らかになりました(図1)。実際、ナイーブT細胞をTLR2リガンドで刺激しても、TLR2の下流のシグナル分子であるNF-κB[11]ERK[11]の活性化の誘導は認められませんでした(図1)。

ナイーブT細胞とエフェクターTh1細胞におけるTIRAPの発現の図図1 ナイーブT細胞とエフェクターTh1細胞におけるTIRAPの発現

ナイーブT細胞またはエフェクターTh1細胞をTLR2のリガンド(FSL-1)で刺激した後のシグナル分子ERKのリン酸化(p-ERK)とTIRAP、IkB-aの発現量を解析した。濃い部分ほど、その分子が多く発現することを示す。Th1細胞ではTIRAPが発現し、ERKのリン酸化やIkB-aの分解(NF-κBの活性化)が認められるのに対して、ナイーブT細胞ではTIRAPの発現がほとんど認められず、ERKのリン酸化やIkB-aの分解も誘導されなかった。

Th1細胞の培養には、T細胞の増殖因子であるインターロイキン-2(IL-2)が必要です。そこで次に、IL-2がTIRAPの発現に及ぼす影響を調べました。その結果、高い濃度のIL-2で培養する条件で分化したTh1細胞は、低い濃度のIL-2で培養した場合のTh1細胞に比べて、TIRAPの発現が高くなることが明らかになりました。また、TIRAPの発現レベルに比例して、高い濃度のIL-2で培養したTh1細胞は、低い濃度で培養した細胞よりも、TLR2リガンドによって誘導されるⅡ型インターフェロン(IFN-γ)[12]の産生やNF-κB、ERKの活性化が高いことも認められました。以上のことから、T細胞では、TCR刺激によってTIRAPの発現が初めて誘導され、IL-2があるとその発現が維持されることが分かりました。

そこで、TCRとIL-2の刺激によるTIRAPの発現誘導のメカニズムを調べました。TCRとIL-2の刺激によってT細胞の増殖を誘導するには、栄養センサーとして知られるmTOR複合体1(mTORC1)[13]の活性化が必須です。共同研究チームは、mTORC1がTIRAPの発現に与える影響を調べるため、mTORC1の阻害剤ラパマイシンの存在する条件でTh1細胞を培養しました。その結果、ラパマイシンの存在下で培養したTh1細胞は、TIRAPの発現が低いことが分かりました。また、Th1細胞をTLR2リガンドで刺激するとmTORC1の活性化が誘導されたことから、その生理的意義を調べました。その結果、ラパマイシンの存在下でmTORC1活性を抑制した条件で、TLR2リガンドでTh1細胞を刺激すると、IFN-γの産生が著しく抑制されることが明らかになりました。

以上のことから、T細胞は、TCR刺激およびIL-2によるmTORC1の活性化を介してTIRAPの発現を誘導し、このTIRAPによってTLR2シグナルを誘導し、エフェクターT細胞を活性化して、IFN-γの産生を誘導することが明らかになりました(図2)。

TIRAPの発現誘導とTIRAPによるTLR2を介するエフェクターT細胞活性化の誘導の図図2 TIRAPの発現誘導とTIRAPによるTLR2を介するエフェクターT細胞活性化の誘導

ナイーブT細胞ではTIRAPが発現していないため、TLR2によるT細胞の活性化が誘導できない。一方、TCR刺激によってナイーブT細胞が活性化されて、エフェクターT細胞に分化すると、TCRやIL-2シグナルによってmTOR複合体1(mTORC1)が活性化され、TIRAPの発現を誘導する。このTIRAPによって、TLR2を介したエフェクターT細胞の活性化が可能になる。

今後の期待

今回の研究成果により、T細胞に発現するTLR2によってT細胞が活性化される詳細なメカニズムが明らかになりました。TIRAPは、TLR2以外のTLRの下流でも活性化シグナルを伝達するアダプター分子であり、ヒトにおいてもさまざまなTLRがT細胞で機能していることが報告されています。そのため、今回の発見に基づき、TIRAP、mTORC1およびそれらの関連分子の機能制御によって、感染症やがん、自己免疫疾患に対する新たな治療薬の開発へとつながると期待できます

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