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【記者の目⑤】いつも「ドラッグストアのために」と突き進んだ宗像守さん

省庁が無視できないほどの急成長ぶり

ドラッグストアは、2002年に経済産業省の商業統計に業態区分され、07年に総務省の日本標準産業分類に加えられた。産業としては20年以内に認められた比較的新しいといえるが、ここ20年で破竹の勢いで売上高を拡大させてきたという一面を持つ。

日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)の調べによると、00年2,663億円だったドラッグストア業界の総売上高が、最新の19年では7兆6,859億円と約3倍にも伸長しており、短期間で経産省や総務省も避けて通れない業態に成長してきた。

12~15年は伸び率に悩み、業界内外から「踊り場に来た」と言われたこともあったが、積極的な店舗網拡大と調剤併設、インバウンド戦略に取り組みながら、新たにスタートした機能性表示食品制度などに対応した結果、16~19年には好調を取り戻し、7兆円を超える市場規模となった。

 

ドラッグストア業界のエンジン・宗像さん

この背景には何があったのか。これにフォーカスすると一人の人物の顔が目に浮かぶ。

「経営者が法を順守しながら運営でき、スタッフが安心して働ける現場(店舗)があってこそ、ドラッグストアはお客さまから支持を得ることができます。これまで、その環境づくりに注力してきました」

ある日、ある取材で、ある人がそう言った。この言葉の主は、JACDSの事務総長だった故・宗像守さんだ。

90年代後半、当時、ドラッグストアにおいて一般用医薬品の供給がグレーゾーンで行われていたことがマスコミから取り上げられ、ドラッグストア業界に厳しいバッシングがあった。いわゆる「薬剤師不在問題」だ。全国のドラッグストア経営者が一致団結し、99年にJACDSは設立されたが、その大きな目的は「ドラッグストアの薬剤師不在問題」を解決することだった。そしてJACDS設立を実現するために自らが先頭になって突き進み、ドラッグストアの健全な発展に向かって情熱を燃やしたのが宗像さんだ。その働きぶりは、“ドラッグストア業界のエンジン”と称されるほど鬼がかったものだった。

 

「狭小商圏で勝ち抜くドラッグストア」を描き、確立

09年、宗像さんを核としたJACDSの奮闘が実り、薬事法(現薬機法)が50年ぶりに改正された。これによって誕生したのが登録販売者制度だった。OTC医薬品にリスク区分をつくり、第1類以上は薬剤師のみ、指定第2類以下は登録販売者でも販売できるようになったのだ。これでドラッグストア業界の悲願であった「薬剤師不在問題」は解消されるが、宗像さんは、そこで立ち止まりはしなかった。

宗像さんが推し進めたのが、「狭小商圏で勝ち抜くドラッグストア」だった。00年代、コンビニ業態の出店戦略が、ドラッグストアだけではなく、スーパーやGMS、ホームセンターの商圏に大きな影響を与えた。急速に狭く、小さくなる商圏に対応すべく、スーパーは店舗小型化、GMSは改装を伴いながら専門店やアミューズメント施設の誘致強化などで集客策を投じてきたが、同様にドラッグストアは店舗数を増やしながら専門性と利便性の向上に舵を切った。これをいかにスムーズに進めていくか。いかに改正薬事法を活用していくか。宗像さんのチャレンジ魂は燃え続けた。

今振り返るとドラッグストアは、登録販売者の登場によってOTC医薬品や健康食品の安全性を担保しながら、薬剤師が調剤や地域医療に注力できるようになり、資格を持たない一般従事者が食品の鮮度管理や日用品の管理など物販に時間を割けられるようになった。要するに改正薬事法によって、専門家を含めた他スタッフの役割が明確化したのだ。

さらに指定第2類~第3類医薬品のみを販売する店舗においては、薬剤師を従事せずとも運営が可能になったことで、法律違反とならずに「薬剤師不在問題」が解決したが、現在ドラッグストアの約7~8割が薬剤師を必要としない店舗であり、こうした店舗が正々堂々と運営されていることを考えると、宗像さんの功績がいかに大きいか理解は容易い。

あるドラッグストア企業の経営トップは「今では当たり前のようにドラッグストアは多くのお客さまに活用いただいているが、20年前は厳しい目を向けられていた。“現在のドラッグストア”を定義し、制度改正など国を巻き込んで確立させた宗像さんがいたからこそのものだ。しかも、ドラッグストア業界の一方的な見方だけでなく、お客さまの視点を忘れなかった」と回想する。

 

ドラッグストア業界が忘れていけないこと

18年6月26日、1つのニュースでドラッグストア業界に激震が走った。「宗像さんが亡くなった」というニュースだった。心不全により63歳の若さで急逝された。宗像さんとコンビのように業界活動を行っていたドラッグストア経営トップは「宗像さんは、普通の人間が20年も30年もかかる仕事をたった10年でやり遂げる人だった。ある時は消費者のため、ある時はドラッグストア経営者のため、ある時はメーカーさんのため、ある時は自社の社員のため…。自分のためではなく、いつも誰かのために時間と体力を削っていた」と宗像さんとの別れを惜しんだ。

JACDS設立から20年、改正薬事法から約10年。ドラッグストア企業は増収増益をマークし、企業規模は拡大の一途をたどる。1,000億円規模のドラッグストア企業も当たり前となり、今後M&Aで1兆円規模のドラッグストア企業も複数出てくるだろう。しかし、その礎になるものを築き上げてきた先人たちがいて、そして90~10年代、宗像さんという一人の男が命がけでドラッグストア業界の歩む道を切り拓いてきたことを忘れてはならない。

「月刊H&Bリテイル」編集部・佐藤健太

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