健康食品情報や機能性食品ビジネスの最新トレンドを配信

ARCHIVE
記事

【スペシャル対談】日立製作所 丹藤匠さん×日本ヘルスケア協会・今西信幸会長

ヘルスケアの可能性を広げる感染症予報サービス③

仕事の経験と私生活の悩みが融合して生まれた「感染症予報サービス」

「天気予報のように感染症を予測できる未来」を描く!

本紙で注目している「感染症予報サービス」(日立社会情報サービス)が10月30日にローンチされた。本サービスは4週間先までの感染症の流行を予報するものであり、この普及・定着がヘルスケア推進を急務とする日本において、非常に有用であることは言うまでもない。今回、日本ヘルスケア協会の今西信幸会長との対談シリーズに、「感染症予報サービス」の生みの親である丹藤匠さん(日立製作所 研究開発グループ 計測・エレクトロニクスイノベーションセンタ ナノプロセス研究部 主任研究員 工学博士)をお迎えした。ヘルスケア=予防に取り組む自治体・企業が数多く存在するが、本稿では「感染症予報サービス」がヘルスケアの可能性を広げるポテンシャルを持つサービスであることを対談を通じて紹介したい。

(記事・写真=佐藤健太)

感染症予報サービスの詳細はこちら

https://www.hitachi-sis.co.jp/service/bigdata/sicknews/

 

「子どもには健康でいて欲しい」共働きの家庭の強いニーズ

 

今西信幸会長

 

今西会長 常々、私は「ヘルスケアとは予防であり、病気になってからお金をかけて治療するのではなく、病気にかからないように食事・栄養・運動・睡眠に配慮していくこと」と主張しています。丹藤さんが予防に着目された背景を教えてください。

 

丹藤さん 私が予防に着目したのは、自身の子育ての体験がきっかけです。私は3児の父親でもありますが、「朝、子どもが発熱していて慌てた」という経験が何度もあります。共働きの家庭ですので、この様な時は病児保育を使いたいのですが、「お医者さんの診断を受けてからでないと使えない」というハードルがあり、とても使いにくいという現状がありました。

さらに幼児保育に預けるにしても、病気の子どもは「親と離れたくない」という気持ちが強く、泣いている子どもを引き離して預けるのは、親としてもとても辛く、そんなとき「自分は何のために働いているのだろう」と考えてしまうこともありました。

このような経験を通じて、そもそも論として、子どもの効果的な予防ができれば子育て世代の悩みが解決できるのではと考え、予防という点にとても興味を持つようになりました。

 

今西会長 丹藤さんは日立製作所でも「計測・エレクトロニクス イノベーションセンタ ナノプロセス研究部」に工学博士として所属しています。

 

丹藤さん 私は元々、感染症の専門家ではないのですが、日立の研究開発グループでは”未来にこんなもの・ことが必要になるだろう”という技術を前向きに検討しています。「感染症予報サービス」は、この仕組みを使って検討をスタートしましたので、初めの取り掛かり自体はやり易かったと言えます。最初は私1人からスタートし、半年ほど経って会社として本格的に検討を始めるようになってから徐々に仲間が増えていった形でした。

 

今西会長 もともとはナノプロセス研究ということで電子顕微鏡を自由に使えたことが“感染症の見える化”という点では幸運でしたか。

 

丹藤さん そうですね。電子顕微鏡を使う機会が多く、その中でバクテリアやウイルスを観察することもありました。医療やバイオの専門家ではありませんが、バクテリアやウイルスを自分で見たことがありましたので、心理的には感染症に対する壁はなく、遠い存在ではありませんでした。前述の通り、自分事の課題として「予防に使えるサービスを作りたい」という思いがありました。そう言った意味で、仕事での経験と私生活の悩みが融合し、アイデアとなって生まれたのが「感染症予報サービス」だと思います。

 

子育て世代の10人中9人が「あったらいいな」と感じる

 

今西会長 「感染症予報サービス」について、丹藤さんはどのような気づきがありましたか。

 

丹藤さん 自分自身が「こんなサービスが欲しい」と思いながらも、周りの皆様、特に子育て世代の方々が私と同じニーズを持っているかという疑問はありました。アイデアを思いついた時点で、周囲の子育て中のお父さん・お母さんに「こういうサービスが世の中にあったらどう思いますか?」ということを聞いて回りました。そうしますと、10人中9人から「あったらいいな。感染症の流行が事前にわかっていれば、予防に役立てられる」というポジティブな返答がありました。「皆様も自分と同じ感覚であれば、このサービスにはかなり有用性があるはず」と思い、ここに突っ込んで検討しようと考え始めました。

 

今西会長 丹藤さんは研究者なのですが、先行きのマーケットリサーチをしていることになりますね。本当にニーズがある部分を捉え、そこで役に立つ研究をしようとしたのですね。そうすると、社内でも「感染症予報サービス」について興味を持たれたのではないでしょうか。

 

丹藤さん これまで私は新事業創生に何度かチャレンジしてきました。研究所に所属していますので、最初の頃は技術起点から「これだけ技術が良いのだから、世間は受け入れてくれるだろう」という視点で考えていましたが、それでは限界があることが経験を通してわかってきました。

このため、最近では、自分が捉えた課題が本当に社会全体の課題となっているのかということを確かめたうえで、そこに対してのソリューションを提案・提供していくというプロセスが必要であると強く思っています。ですので、今回もアイデアを思い付いた時点でエンドユーザーと想定される方々に「これはどうでしょうか?」と、最初に聞いてみたのです。

 

今西会長 初めて会社に企画書を出したときは、周囲からどのような反応がありましたか。

 

丹藤さん 2つの反応がありました。一つは、「自分事の問題意識から社会の課題を捉えている視点は良い」という評価をいただきました。その一方で、「その課題を解決するソリューションとして、このサービスが妥当なのか」という声もありました。「感染症予報サービス」は、感染症の情報を扱いますので、風評被害などにつながる可能性もあります。「そこまで深く考えて提案したサービスなのか?」という示唆です。

 

損保ジャパンとの出会いでさいたま市とコネクト

 

今西会長 それに対して、丹藤さんはどのような答えを持っていましたか。

 

丹藤さん 正直なところわかりませんでした。課題を捉えていることは自信がありましたが、それがどういう波及効果をもたらすのかということは試してみないと判断できません。会社には「実証実験をする意味でも、検討に投資をしてほしい」と提案し、OKを出していただいたという流れです。

 

今西会長 その結果として、日立製作所さんとして「GO」というサインが出たということですね。それもすごい英断だと思います。丹藤さんも新規事業の立ち上げは未経験だった思いますが、それを応援した企業も素晴らしいと思います。前例があればそれに則ればいいのですが、前例がない。研究開発の大きな課題でもありますね。「感染症予報サービス」を推進していくうえで、行政や医療との交渉はどのように進めていきましたか。

 

丹藤さん システム開発は外部のベンチャー企業とも協力しながらスピードを上げて進めていきました。昨年度さいたま市で実証実験をした際は、企業や行政とも組ませていただき、サービスを提供するためのエコシステムを構築しました。実証実験自体は損保ジャパン様との共同企画でした。自社と損保ジャパン様のネットワークを使いながらコネクション広げていきました。さいたま市と繋がれたのは損保ジャパン様の仲介があったからこそです。

 

今西会長 医師会とのコネクトは。

 

丹藤匠さん

 

丹藤さん 日本医師会ORCA管理機構様と協力関係を築いたのですが、実は私が飛び込みでお願いしに行ったのがきっかけです。感染症予報サービスを開発していくためには、予測のための元データとして、罹患者数データを集めなければなりませんでした。世の中にどういったサーべイランスがあるのか調べてみますと、リアルタイムで情報を収集するORCAサーベイランスがあることがわかり、飛び込みでお邪魔して「私はこういった(感染症の流行を予報して予防に役立てる)社会を実現したいです、ご協力頂けないでしょうか」とお願いしてみました。まだその時点ではシステムが完成していなかったので、数枚の企画書のみの状態で、私が描くビジョンを伝えました。ORCA管理機構様も自分たちのサーべイランスを“医療の天気予報”として活用したい、というビジョンを持っていましたので、「やりたいことは同じ」ということがわかり、協力していただけることになりました。

 

実証実験で感じた手応えで自信が「確信」に変わった

 

今西会長 手掛けられてから、どれくらいの期間で手応え「これはいける」という確信が生まれましたか。

 

丹藤さん 実際に検討が始まって、本格的に会社から投資を受けて動けるようになったのは2018年10月頃からです。2019年12月からさいたま市で実証実験を行ったことが自分にとっては大きな出来事でした。実証実験を終えるまでは確信が持てない状態でした。実証実験を終えて、その結果を見てみるとユーザーから「また利用したい」「とても便利だった」「こういうサービスが欲しかった」など非常に高い評価を得ていることがわかりました。そのとき、「たぶん、このサービスは皆さんに使っていただけるだろう」という自信が、「これなら皆さんに喜んで使っていただける」と確信に変わりました。

 

今西会長 そう感じたならば、「感染症予報サービス」は次のステップに上がらなければなりません。「これだけいいものなんだから、どうやってアピールしていくか?」というステップです。そこでは、研究者としてではなく会社として考える必要があります。

例えば、トヨタのセールスマンが営業で「トヨタの車は優れている」と言っても、それを鵜呑みにする人は少ないと思います。ですが、自動車工業会が「トヨタの車が良い」と言えば、外部からの声として受け入れる人も多いでしょう。

私は「感染症予報サービス」を素晴らしいと思っていますので、ぜひ日本ヘルスケア協会並びに日本ヘルスケア学会を活用して、ともにアピールしていただければと思っています。

今後、「感染症予報サービス」はどのような改良がなされていくでしょうか。

 

丹藤さん 現在インフルエンザを対象に予報ができるサービスを提供開始しています。ゆくゆくは予測できる感染症の種類を増やし、更には、現在の市区町村単位で出している予報を、さらに目の細かい地区単位まで出せるようになると、さらに皆様に喜んでいただけると思い、ぜひブラッシュアップしていきたいと思います。

 

今西会長 天気予報でも昨今ではピンポイントで知ることができます。これを感染症予報サービスに落とし込んでいきたいと言うことですね。その目処はついているのでしょうか。

 

丹藤さん 目の細かい予報を実現するためには、予測のための元データを更に集めることが必要になってきまして、「どういった元データが必要か?」という検討を進めています。感染症の種類を増やす場合についても元データが必要ですので、これを確保した上で予測エンジンもそれに対応させていく、という形で社内でロードマップを作り、進めていこうとしています。

 

10月30日にローンチ 民間企業での活用も視野に

 

今西会長 なるほど。良いシステムを作っても寄付でというわけにはいきません。継続的に運営するためのフィーは確立しつつあるのでしょうか。

 

丹藤さん 「感染症予報サービス」は2020年10月30日にサービスをローンチしまして、自治体向けにサービス提供を開始しています。まずは自治体の皆様にお使いいただき、それなりの対価をいただくということを考えています。その先に民間企業でも活用いただく計画も持っています。現在、民間企業向けのサービスモデルを、関連している民間企業とディスカッションさせていただきながら検討を進めている段階です。

 

今西会長 「感染症予報サービス」は、保険会社などが興味を示すのではないでしょうか。

 

丹藤さん そうですね。保険会社様からも「こう言う使い方ができるね」という声をいただいています。感染症は特定の誰かではなく、皆さんがかかる可能性があるものですので、使い方が非常に広いことを改めて感じているところです。「これを使ったら、こんなサービスができるかもしれない」という、いろいろな掛け合わせができるポテンシャルがあります。私たちが想定していたよりも多くの組み合わせがあるのだと、皆様と意見交換していくことで広がりを感じているところです。

 

予防だけではなく生産調整や販促でも活用できる

 

今西会長 例えば、どのような組み合わせがありますか。

 

丹藤さん 「感染症予報サービス」は生産調整にも活用することができます。例えば、冬場になるとインフルエンザを予防するために免疫力を高めようとヨーグルトなどの乳酸菌を含む食品を積極的に購入する消費者が増えます。感染症の流行と乳酸菌を含む食品の売れ行きは相関があると思います。一方で、ヨーグルトなどの乳製品は一般的にあまり賞味期限が長くはないため生産調整が難しいものと考えます。こうした生産調整に「感染症予報サービス」の予報情報は役立つものと思います。

 

今西会長 ITではなく社会科学ですね。他には。

 

丹藤さん 販売促進にも活用できると考えます。感染症の流行が事前にわかっていれば、小売業者はマスクや消毒液などの在庫管理もコントロールしやすくなりますし、「感染症が流行りそうです」という予報とともに具体的な商品をレコメンドすることで、お客さまの購買行為を変容させることもできるのではないかと思います。

 

今西会長 天気予報のようにテレビ局などのマスメディアが感染症予報サービスを購入するということも想定できますね。インフラの一つとして定着していくことも考えられますが、定着させていくには、より多くのマンパワーが必要になってきます。ネクストプランはあるのでしょうか。

 

丹藤さん サービスが回り始めて、徐々に大きくなっていくとそれに応じて社内のリソースも投入されていくと考えています。もちろん私も営業活動をすることがありますが、最近では、日立社会情報サービスの営業部隊が社外でご提案やディスカッションをすることが多くなってきました。営業部隊がサービス内容を詳細まで理解した上で、ご提案できる仕組みができています。

 

今西会長 こうしたサービスは社会に発表することで評価を得ていきますが、この領域は発表する場があまりないですね。そういう意味では日本ヘルスケア学会等をうまく利用していただくのも手ですし、日本ヘルスケア協会内に新しい部会を立ち上げることも重要になってくる思います。例えば、当協会には「野菜で健康推進部会」という部会があり、「野菜に効能効果を表示していい」という実証実験を行うところまで来ています。

 

丹藤さん 確かに予防領域では発表の場が少ないと感じています。例えば「AIを使った〇〇の予測技術」ですと相応の学会も存在しますが、「感染症予報サービス(の効果)」になると、あまりピンとこない感じがします。

 

 

関係者の強い思いで結実したさいたま市での実証実験

 

今西会長 企業が新しいサービスを作ったときにその真贋を確かめ、それが真ならば普及しやすくなるような発表する場が不可欠ですが、予防分野の場合は幅広いソリューションを掛け合わせたサービスが多いため、縦割りの構造では非常に難しい現状があります。

ぜひ日本ヘルスケア学会を活用してください。良いものが普及しやすい環境を作るためには、学会やマスコミの協力が必要ですので、日立さんにはその戦略をぜひ考えていただきたいと思います。

「感染症予報サービス」は非常に価値がありますし、インフラとしての今後の定着も期待できます。いかに一般の方々に伝えるかということが大切になってきますので、この対談を通じて、幅広い方々に感染症予報サービスを知ってもらえればと願っています。

最後に「感染症予報サービス」を開発・推進していくうえで一番嬉しかったこと、苦しかったことは。

 

丹藤さん さいたま市での実証実験では、実際に実施が決定してからスタートまでの準備期間は実質4ヶ月程度しかありませんでした。その中でサービスをどう打ち出していくのか。前例はありませんし、早急にシステムも作らなければなりません。さいたま市には130万人の市民がおり、その規模に対して、経験したことがないサービスを出すことは非常に大変でした。実証開始日が近づいてくると、準備不足も含めてかなり苦しい状況になりました。12月6日からサービス提供を開始すると発表していましたが、その準備はギリギリまでやっていました。

ですが、そういった苦しい状況にもかかわらず、社内・社外の関係者全員が誰一人として弱音を吐かず、「何とか上手くやろう!」と最後まで協力してくれました。この思いと姿勢が私にとって最も嬉しかったことです。

関係者全員の「世の中に新しいものを出して、皆様に喜んでもらいたい!」というビジョンが一致していて、それによって全員の絆が強く繋がっていました。ビジョンで社内外の人々が繋がる、これには非常に感動しました。

 

今西会長 日立製作所版の「ガイアの夜明け」みたいですね。そういう意味ではさいたま市は非常に大きな事例となりましたね。

今後、日本ヘルスケア協会も「感染症予報サービス」の普及について全力で協力していきます。それが“ヘルスケア推進”という大きなうねりとなり、結果的に全ての生活者のヘルスケアに寄与していくことになるでしょう。これからの「感染症予報サービス」の普及・定着に大きな期待を持って対談を締めくくりたいと思います。ありがとうございました。

 

丹藤さん 私どもも多くの方々のヘルスケアに寄与できるよう、今後も尽力していきます。本日はありがとうございました。

 

感染症予報サービスの詳細はこちら

https://www.hitachi-sis.co.jp/service/bigdata/sicknews/

一覧に戻る