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【スペシャル対談】ライオン・掬川正純社長×日本ヘルスケア協会・今西信幸会長

ライオン創業130年は「より良い生活習慣づくりの歴史」

毎号連載している日本ヘルスケア協会・今西信幸会長の対談企画。今回はライオンの掬川正純社長にご登場いただいた。同社は創業から約130年経過するが、オーラルケア商品からホームケア、OTC医薬品などトータルで日本の生活を支えてきた。この130年は、まさに「より良い生活習慣づくりの歴史」と言え、今西会長はこの歴史から同社を「ヘルスケアの中核企業」と位置付ける。この対談で、「ヘルスケアにおけるオーラルケアの可能性」や「日本が、“世界最高齢国家”をどうポジティブに捉えるか?」などが語られた。(記事・写真=佐藤健太)

今西会長(左)と掬川社長

1日2回歯を磨く生活者は50年前の4倍に拡大

今西会長 ライオンさんは長きに渡り、オーラルケアなどで商品供給や啓発活動を通じて、日本のヘルスケア推進に大きな役割を果たしてこられましたね。

掬川社長 当社は創業から約130年が経ちます。その当初から歯ブラシや石鹸などをお客さまにご提供してきましたが、ただ単に商品を届けるだけではなく、「より良い生活習慣づくり」という考え方に視点を当て、啓発や広告宣伝等のコミュニケーションを続けてきました。そうした意味では、私たちの130年の歴史は「生活習慣づくりの歴史」と言い換えられるでしょう。

今西会長 例えば、どのような取り組みを実施してこられましたか。

掬川社長 今西会長がおっしゃるように、当社はオーラルケアを通じた予防歯科に注力し、オーラルケアはヘルスケア推進に直結させる有効な手段だと位置付け、早くから取り組んできました。例えば、小学生を対象とした啓発活動で、昭和7年から始めている「小学生歯みがき大会」というイベントです。幼少の頃から正しい歯磨きを習慣化させることで、虫歯や歯周病の予防を狙ったものです。数十年に渡り実施し続けて、最近ではウェブ上や海外でも開催しています。
こうした取り組みが1つの貢献要素となり、歯磨きの習慣は、1969年から約50年間で1日に2回以上歯を磨く生活者の割合が4倍程度に拡大し、現在は80%以上まで伸長しています。また、この期間、虫歯を持っている小学生の比率は約4分の1に低下していることを鑑みると、歯磨きは健康な生活を維持していくのに役立っていると言えます。

今西会長 ライオンさんは歯磨きという生活習慣を啓発していくとともに、企業としても成長してきたように思えます。

掬川社長 もちろん事業を行っておりますので、商売で利益を得ていくことも重要ですが、先程の例で申し上げますと、約50年間で歯を1日2回以上磨く生活者が約4倍になったことによって、歯磨き剤の市場規模も同期間で約4倍に拡大しています。事業を通じてお客さまのヘルスケアに貢献していくことが、結果的にマーケットサイズを広げ、事業の拡大につながっていると考えています。
まさに今で言う「CSV(Creating Shared Value)」の考え方になります。当社は、事業を通じてお客さまの生活を良い方向に導き、健康に良い習慣づくりに貢献をしていくということを古くから取り組んできた企業です。当社の企業フィロソフィーだと位置付け、今後も追求していきたいと考えています。

全身のヘルスケアに関与するオーラルケア

健康寿命延伸に寄与するオーラルケア

今西会長 ライオンさんの取り組みによって、日本においてオーラルケアは進んできたと思いますが、ヘルスケア全体で考えるとあまり浸透していない現状があります。ヘルスケアとは「予防」であり、平均寿命と健康寿命に目を向けると、男女とも約9〜12年の乖離があります。要するに、多くの方々が死を迎えるまでの9〜12年は寝たきりの状態となっているということです。
浸透していない理由は簡単です。厚生労働省は非保険分野での健康維持のことを「セルフメディケーション」と呼び、それは「風邪を引いたらOTC医薬品を」というようにあくまでも治療としての取り組みです。
ヘルスケアは体・頭・心に良いものを取り入れ、健康な体を維持していこうという取り組みですので、その領域は多岐に渡ります。
ですが、ペットケアは環境省、栄養や食事関係は農林水産省、医療が厚生労働省ですので、管轄する省が違うため、その足並みにもばらつきが出ています。そういう意味では日本はヘルスケアの後進国であり、産業構造ベースで考え直す必要があると思います。
日本ヘルスケア協会は、歯磨きなどのオーラルケアをヘルスケアの有効な手段だと捉えており、「オーラルケアは全身の健康状態に多大な影響を及ぼす」ということを提言しています。
例えばアミロイドβの蓄積に関して、歯槽膿漏が関係していることが医学の進歩で解ってきました。これは、口腔内環境を正常化させていくことは、虫歯や歯肉炎のみではなく、脳血管障害やアルツハイマーの予防に有効だと言うことになります。こうしたことを知らない生活者は非常に多く、ライオンさんが主体となり、もっと世の中に提言していただきたく思っています。
日本ヘルスケア協会には、日本ヘルスケア学会があります。当協会もライオンさんと共に「オーラルケアが全身のヘルスケアに寄与し、様々な疾患の予防になる」ということを、エビデンスを取りながら確立させ、世の中に示していきたいと考えています。また、東京医科歯科大学などとコラボレーションしていけば、さらにその勢いが加速化することでしょう。
オーラルケアを目的とした歯科予防が、結果的に全身のヘルスケアに役立っていることを知らしめられれば、さらなる市場の活性化にもつながりますし、海外への事業展開を視野に入れたとき、これから必要になってくる人たちが大勢います。

 

「最高齢国家」をポジティブに捉える 

真面目にエビデンスを取る日本式ヘルスケア

掬川社長 「日本的な良さ」はヘルスケア分野でもエビデンスを確立させた上で普及させていこうとする真面目さであると思います。確かに、時間がかかりますし、一見すると回り道に思えてしまいますが、「メイド・イン・ジャパン製品」が世界各国で支持されているのは、その真面目さが理由になっていますね。
当社も「口腔内の健康状態が全身のヘルスケアに影響してくる」という考え方には大変注目しています。ですが、きちんとエビデンスをとって、啓発をしていかなければ“まやかし話”のようになってしまいかねません。ですのでオーラルケアに関して疫学的なデータを集めたいと考えています。
当社は、弘前大学COI研究推進機構に参画しており、オーラルヘルスケアに介入した群とそうではない群に分け、健康状態にどのような差が出てくるか、大きな集団で長期的に追求する研究を続けています。実は、私も5月に弘前大学に行き、その実態をヒアリングする予定でしたがコロナ禍の影響でキャンセルになってしまいました。
こうした取り組みのバリエーションを広げるために、今西会長から紹介していただいた取り組みに対し、当社がどのように役に立っていけるかをきちんと検討していきたいと考えています。

今西会長 日本の特徴を何かと問われれば、まず1つ挙げられるのは「最高齢国家」ということです。財政面での負担は大きくなっていますが、それをポジティブに捉えると「高齢社会に成功している国」と言い換えることができます。こうした切り口で日本のインフラや文化を世界にもっと発信していくべきだと思います。
例えば、なぜ今フランスで日本酒がブームになっているのか。それは、フランス人が日本に対して健康長寿というイメージを持っており、「日本で愛されているお酒は体に良い」ということが前提になっているからです。
日本は他国よりも高齢化率が高く(約28%)、第2位のイタリアよりも4%も高いという現状です。日本は高齢社会を支えるインフラを国内だけではなく、アジア、さらにはヨーロッパに発信していけば大きな市場形成にもつながっていくと思われます。ですが、より良い高齢社会を実現するのは、必ずしも医療=治療ではなく、むしろ予防=ヘルスケアが果たす役割が大きいように思います。
こうした意味で、私は日本ヘルスケア協会を運営して行く上で、かつてからヘルスケアに積極的なライオンさんとコラボレーションしたいと思いますし、それが日本のヘルスケアの推進になるとすれば、企業だけではなく生活者にとっても大変有意義なことになります。
これから医療費は高齢化率が高まるにつれてさらに逼迫していくとされていますが、ヘルスケアをきちんと生活に取り入れていくことで健康寿命が延び、医療にお世話にならない元気なシルバー世代の増加にもつながっていきます。これは「ヘルスケアの中核企業」であるライオンさんの大きな役割であるとも思います。

「最高齢国家」から生まれるイノベーションは日本の財産

掬川社長 本当に心強い言葉をいただきありがとうございます。今西会長がおっしゃったように、日本は世界最先進の高齢国家といえます。一般的にはネガティブな印象となってしまいがちですが、私は「決してネガティブな面だけではない」と様々な場面で話しています。
我々も日本で事業展開をしていますが、高齢社会に適応できるようなプロダクトやサービス、あるいはビジネスモデルを研ぎ澄まして行くと、やがて高齢社会に突入する東アジアやヨーロッパの国々で役立てることができ、日本国内での取り組みも、それらの国々の参考になります。これは日本にとって大きな財産でもあります。
日本のヘルスケア産業は海外に打って出て、その国の状況に合わせながらカスタマイズしていくことで、より多くの世界規模の人々から活用されることになります。私としても、この領域に関して非常に大きな成長性があると感じていますし、「ライオンの夢」として描けると期待をしています。ぜひ、日本で培った高品質なヘルスケアを強みにしていきたいと思います。

今西会長 現在、産業は「食品会社」や「製薬会社」など、自社のプロダクトによって分けられていますが、当協会は、予防領域に寄与している企業を「ヘルスケア企業」と呼べるように移行していくお手伝いをしていきたいですし、そのメインストリームにはライオンさんにいていただきたい。

掬川社長 日本人の消費支出は長い間伸びていない傾向にある一方、ヘルスケア分野に関しての支出は恒常的に増加しています。お客さまの購買動向がヘルスケア分野にシフトしていることが分かります。お客さまの健康意識も高まっていますが、当社によるエビデンスベースの情報提供はまだまだ不足しています。それに対応していけば、ヘルスケアに対する支出はさらに伸びていくでしょう。

今西 本日はありがとうございました。今後ライオンさんは「ヘルスケアの中核企業」として多くの方々からの期待がさらに高まっていきます。日本ヘルスケア協会もライオンさんと共に、ヘルスケア推進にぜひ協力させていただきたいと考えています。

 

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